アシスタントが描いた部分の権利と、ポートフォリオ・クレジット

権利の譲渡と人格権の不行使は前提。漫画で決めるべきは、制作素材の範囲と実績公開の型です。

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アシスタントが「この背景を描きました」と作業前後の比較画像を載せると、未発表の回の内容まで分かってしまうことがあります。

このページの要点

  • 27条・28条の権利は、譲渡の対象として明記しないと譲渡した側に残ると推定される(著作権法61条2項)。4案件とも明記していた。
  • 完成原稿だけか、3Dモデル・背景素材まで含むかで、別の作品での再利用の可否が変わる。
  • 実績公開は、個別承諾制・承諾と条件・参加の事実だけ・作品の一部と明示して担当部分を実績に、の4つの型から選ぶ。
  • 第三者の素材は、利用規約・商用の可否・改変の可否・クレジットの要否を確認して報告させる。

結論:権利の譲渡は前提。漫画で決めるべきは「素材の範囲」と「実績公開の型」

アシスタントが描いた背景やモブも、創作性があれば著作物になりえます。業務委託のアシスタントには職務著作の規定(著作権法15条1項)が原則として働かないため、漫画家が単行本・電子版・グッズ・映像化まで自由に使えるようにするには、アシスタントからの著作権の譲渡と、著作者人格権の不行使を契約で定めるのが基本です。著作権の譲渡契約で、翻案権など(同法27条)や二次的著作物の利用に関する権利(同法28条)を譲渡の対象として明記していないと、その二つは元の著作者の手元に残ったものと推定されます(同法61条2項)。事務所が作成したアシスタントの契約書4案件は、いずれもこの二つを特掲していました。著作権の譲渡と不行使の一般論は、姉妹サイトの著作権の譲渡契約書と、著作者人格権の不行使にゆずります。

漫画に固有なのは、次の二つの利害の衝突です。一つは、アシスタントにとって担当した背景や仕上げが次の仕事を得るためのポートフォリオになる一方、漫画家にとっては未発表原稿の流出と、担当箇所の公表による作品イメージへの影響が問題になること。もう一つは、アシスタントが作った3Dモデルや背景素材、ブラシなどの制作素材が、完成原稿とは別に価値を持ち、別の作品に流用される場面があることです。このページでは、4案件(ここでもA〜Dの記号で示します)の条項を比べながら、この二つの決め方を整理します。

権利の帰属の条項:4案件の比較

成果物の権利の帰属の定め(4案件)
案件移転の時期特徴
A案件完成時又は納品時のいずれか早い時点著作権のほか著作隣接権・意匠権を含む。27条・28条を明記。不行使の相手方に「漫画家から権利を承継し、又は利用許諾を受けた者」を含める。背景・モブ・効果線・3D・衣装・小物・構図の補助など、創作的な判断を伴う作業にも適用。漫画家が電子書籍・単行本・広告・映像化・グッズ化・翻訳・海外展開・SNSの告知・ポートフォリオ・営業資料に使うことに異議を述べない
B案件作成の時点27条・28条を明記し「無償で譲渡する」(報酬に含む趣旨)。漫画家の書面の許諾があれば再利用でき、その場合はクレジットの表記などの条件に従う
C案件完成と同時人格権の不行使に公表権・氏名表示権・同一性保持権を明記し、漫画家が氏名の表示や修正について承諾を求める義務を負わないことを確認
D案件完成と同時(納品・支払の有無を問わない)アシスタントが自分の既存の著作物を使った場合は、その権利も移転するか、制限なく利用を許諾する。成果物の権利を第三者に譲渡・移転・担保提供・利用許諾することを禁じる

C案件が人格権の不行使に公表権・氏名表示権・同一性保持権を明記し、漫画家が氏名の表示や修正について承諾を求める義務を負わないと確認したのは、漫画の制作の実態に合わせたものです。漫画家は、アシスタントの描いた背景を原稿に統合する過程で、トリミングし、線を足し、トーンを貼り直します。そのたびにアシスタントの承諾が要るとすれば、原稿は仕上がりません。出版社との関係では漫画家が改変される側に立ちますが(改変と同一性保持権)、アシスタントとの関係では改変する側に立つ、という立場の違いを踏まえた条項です。

移転の時期は、「完成時又は納品時のいずれか早い時点」「作成の時点」「完成と同時」と、いずれも早めに置かれていました。完成した後、納品の前にアシスタントとの関係が切れても、権利が漫画家に移っていることを確保するためです。D案件が「納品・支払の有無を問わない」と明記したのは、報酬の精算をめぐって争いになっても、作品の出版が止まらないようにする意味があります。

D案件の、成果物の権利を第三者に譲渡・移転・担保提供・利用許諾してはならない、という定めも重要です。権利の移転を定めるだけでなく、受託者が同じ成果物の権利を別の相手に処分すること(いわゆる二重譲渡など)を明示的に禁じたものです。A案件が不行使の相手方に「漫画家から権利を承継し、又は利用許諾を受けた者」を含めたのは、出版社や映像制作会社が作品を使う場面で、アシスタントが人格権を主張しないことを確保するためです。漫画家から出版社、出版社から許諾先へと利用が広がる漫画では、不行使の相手方を漫画家だけにしておくと足りません。

完成原稿だけか、制作素材まで含むか

漫画では、出版された作品に漫画家の名前(ペンネーム)が著作者名として表示され、その者が著作者と推定されます。著作権法14条は、著作物の公衆への提供・提示の際に、実名又は周知の変名(雅号・筆名など)が著作者名として通常の方法で表示されている者を、その著作物の著作者と推定すると定めています。アシスタントの担当部分を切り離して利用することは通常想定されませんが、アシスタントが作った背景素材・3Dモデル・ブラシなどの制作素材が別の作品に流用される場面では、移転の範囲が完成原稿だけなのか、制作素材まで含むのかが問題になります。

A案件は、成果物に「作成、制作、加工、修正、補助又は納品した成果物」を広く含め、3Dモデル・素材の作成も業務範囲に入れていました。漫画家が別の連載でも同じ3D背景を使いたいなら、制作素材が成果物に含まれ、その権利も移転していることが前提になります。完成原稿だけを対象にしている契約では、別途の合意が必要です。

権利と素材の二方向の流れ
アシスタント背景・3Dモデル・素材を作成
成果物(制作素材を含むか)の権利を移転
漫画家原稿に統合・別作品で再利用
3Dデータ・ブラシ・テンプレートを提供(目的外の利用は禁止)
アシスタント業務の範囲でだけ使用

A案件は、漫画家から提供された制作素材を、アシスタントが自己の作品・他者の案件・商用素材・ポートフォリオ・練習作品に使うことも禁じました。

逆方向の流出にも手当てが要ります。A案件は、漫画家から提供された3Dデータ・素材データ・ブラシ・テンプレート・参考資料その他の制作素材を、アシスタントが自己の作品、他者の案件、商用素材、ポートフォリオ、練習作品その他業務以外の目的で使うことを禁じました。漫画家が時間と費用をかけて作った3D背景やブラシは、それ自体が制作の資産であり、完成原稿とは別に守る必要があります。

ポートフォリオ・実績公開の4つの型

4案件の実績公開の定めは、4つの型に分かれました。

アシスタントのポートフォリオ・実績公開の型

①個別承諾制

C案件:原則禁止

ポートフォリオなどに使うには事前の書面の承諾が必要で、漫画家は承諾するかどうかを自由に判断できます。

②承諾制+条件

B案件:書面の承諾と条件

SNS・ポートフォリオ・ウェブサイト・展示への掲載は、事前の書面による明示的な承諾が必要です。承諾した場合は指定の範囲・方法・条件に従い、再利用の許諾は目的と期間を書面で限ります。

③参加の事実だけ

A案件:公開後に参加の事実を公表可

作品の公開後に限り、アシスタントとして参加した事実を公表できます。担当箇所・作業内容の詳細・報酬・制作過程・編集部の情報は開示できず、成果物や担当箇所をポートフォリオに使うには公開後でも事前の承諾が必要です。作業前後の比較画像や担当箇所を示す画像も禁止です。

④担当部分を実績に

D案件(改訂後):明示と誤解の禁止

担当した背景などを他の業務の実績紹介・ポートフォリオに使えます。ただし著作権を主張せず、漫画家の作品の一部であることを明示し、第三者に誤解を与える態様で使いません。

事務所の書類での扱い D案件のポートフォリオの条

担当部分の実績利用

改訂前成果物の権利の移転と著作者人格権の不行使だけを定めていた。(当初版)
改訂後担当した背景等を他の業務の実績紹介・ポートフォリオに使えるとし、その条件として、著作権を主張しないこと、漫画家の作品の一部であることを明示すること、第三者に誤解を与える態様で使わないことを定めた。(依頼者との協議を踏まえた改訂)

理由アシスタントは受注のたびに承諾を求めなくても実績として示せるようになり、漫画家は「作品の一部であることの明示」と「誤解を与える態様の禁止」で作品イメージを守る、という折り合いを付けるため。

A案件の実績公開の条(要旨)

1アシスタントは、本作品が公開された後に限り、漫画家の作品にアシスタントとして参加した事実を公表することができます。ただし、担当箇所、作業内容の詳細、報酬、制作過程及び編集部に関する情報を開示してはなりません。

2アシスタントは、本作品の公開後であっても、漫画家の事前の承諾を得ない限り、成果物又は担当箇所をポートフォリオその他の実績紹介に使用してはなりません。

3アシスタントは、作業前後の比較画像、担当箇所を示す画像その他制作の過程が分かる画像を公開してはなりません。

「参加した事実」と「担当箇所」を分けて書くのがこの型の要点です。

ヒヤリングで確かめること 実績公開の型を選ぶときに確かめること

  1. 頼む作品は、すでに公開されていますか、これから公開される未発表の作品ですか。

    未発表の作品なら、公開前の実績公開は認めない前提で型を選びます。

  2. 出版社との契約や編集部の方針で、制作過程の公開はどこまで許されていますか。

    漫画家が出版社に負う義務より広くアシスタントに認めることはできません。

  3. どのコマを誰が描いたかが分かることは、作品にとって問題になりますか。

    担当箇所の開示まで禁じるか、作品の一部であることの明示で足りるかの分かれ目です。

  4. アシスタントは、次の仕事のための実績として何を示したいと考えていますか。

    受注のたびに承諾を求める型より、条件付きで認める型の方が、継続して頼みやすくなる場合があります。

  5. 講座や配信で教材に使うこと、採用の応募で提出することは認めますか。

    媒体を名指しして決めておくと、承諾の範囲の争いを防げます。

どの型を選ぶかは、作品が公開済みか未発表か、連載中か完結済みか、出版社との契約で制作過程の公開がどこまで許されているかで変わります。A案件が「担当箇所」の開示まで禁じたのは、作品の公開後でも、どのコマを誰が描いたかが明らかになると作品の受け止められ方に影響する、という考え方によるものと見られます。未発表の原稿と実績公開の衝突は、秘密保持の問題とも重なります(未発表原稿・ネームの秘密保持)。

公開を禁じる媒体と情報、違反したときの措置

B案件の秘密保持契約書は、公開を禁じる媒体として、SNS、ポートフォリオ、ウェブサイト、展示会に加えて「講座」を挙げました。描き方を教える講座や配信で、実際の仕事の原稿を教材にすることを想定した定めです。公開を禁じる情報にも、成果物・制作過程・作業中の画像に加えて「漫画家との業務上のやり取り、指示内容、発言」を入れ、漫画家の指示の仕方や言葉をSNSの話題にする投稿も対象にしました。承諾して公開させる場合は、範囲・方法・期間・クレジットの表記の条件を守らせ、違反すれば削除・修正に直ちに応じさせます。

C案件の秘密保持契約書は、成果物・関連資料の開示を禁じる場面に、ポートフォリオ・SNS・ウェブサイト・電子データベース・展示会に加えて、採用資料・営業資料・同人活動を挙げ、違反は重大な債務不履行又は信頼関係の破壊に当たり、催告なく解除できるとしました(存続期間は終了後5年)。アシスタントが別の漫画家やスタジオに応募するときの作品の提出や、自分の同人誌での流用という、漫画の現場で実際に起きる利用の場面を名指しした例です。

B案件は、再利用を許諾するときも、許諾の範囲は書面に明示した目的と期間に限られ、契約終了後も再利用を続けさせるなら、その旨を明示する必要がある、としました。ポートフォリオの承諾を口頭で出して、どの作品の、どの部分を、いつから使ってよいのかがあいまいになることを防ぐ書き方です。A案件は、SNSや実績公開の制限に違反した場合、漫画家が投稿の削除・訂正・謝罪・再発防止の措置その他必要な措置を求めることができる、としました。金銭の請求の前に、まず投稿を消させる手段を条文に書いておく意味は、拡散の早いSNSでは大きいものです。

未発表の原稿をアシスタントが無断でSNSに載せる行為は、契約違反であると同時に、漫画家の公表権の問題にもなります。公表権とは、まだ公表されていない著作物を公衆に提供し、又は提示する権利で(著作権法18条1項)、未発表の回の原稿や没になったネームは、まさにこの権利の対象です。

アシスタントが「自分も共同で創作した」と主張するリスクにも、A案件は秘密保持契約書の側で手当てをしていました。秘密情報について、著作者・共同著作者・共同創作者その他これに類する地位を主張しないこと、漫画家又は正当な権利者による利用・改変・公表・翻案・出版・映像化・商品化に異議を述べないことを定め、違反して出願・登録などで権利化した場合は、権利の移転・抹消・放棄に無条件で協力させる、という定めです。モブや構図の補助のように創作的な判断を伴う作業を頼むほど、この手当ての意味は大きくなります。

一方で、A案件は、漫画家が成果物を自身のポートフォリオ・営業資料として使うことにアシスタントは異議を述べない、とも定めていました。著作権の移転を受けた漫画家が完成原稿を自分の実績として示すのは当然ですが、アシスタントのポートフォリオの利用を承諾制にする一方で漫画家の側の利用には制限がない、という非対称は、条文の上ではっきりさせておくと後の誤解を防げます。

クレジットの扱い

アシスタントの名前が単行本の巻末などに載ることもありますが、4案件とも、クレジットの表記を義務とする定めはなく、氏名表示権を含む著作者人格権の不行使で処理していました。B案件は、再利用を許諾するときに「クレジット表記その他漫画家が指定する条件」を守らせる形で、クレジットを漫画家の側から指定する条件として位置づけています。

原作クレジットとは性質が違う点にも注意が要ります。原作者の氏名の表示は、二次的著作物の公衆への提供・提示に際しての原著作物の著作者名の表示として、原作者の権利になります(著作権法19条1項後段)。アシスタントのクレジットは、契約で決める事項です(原作者と作画者の権利関係)。

第三者の素材を組み込む前の確認と保証

A案件は、アシスタントが漫画家の事前の承諾なく、第三者が権利を持つ画像・写真・イラスト・素材・3Dモデル・フォント・ブラシ・テンプレート・生成物を成果物に組み込んではならず、第三者の素材を使う場合は、利用規約・ライセンスの条件・商用利用の可否・改変の可否・クレジット表記の要否を確認して漫画家に報告する、としました。アシスタントから漫画家、漫画家から出版社へと権利を引き継ぐとき、途中に権利処理の分からない素材が混じると、最終的に漫画家が出版社に対して負う保証に響くためと考えられます。

第三者の権利についての定め(C案件とD案件)
項目C案件D案件
侵害しないことの保証第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないよう十分留意する著作権・商標権・意匠権・肖像権・名誉権・プライバシー権・不正競争防止法上の権利などを侵害しないことを保証する
調査・確認―成果物に使う画像・参考資料・素材・デザインについて、自己の責任と費用で必要な調査・確認を行う
紛争が起きたとき自己の責任と費用で解決する第三者から主張・警告を受けたら直ちに通知し、協議のうえ誠実に対応する
損害―アシスタントの責めに帰すべき事由による侵害で漫画家が損害を受けたときは補償・賠償する。終了後も存続

背景の資料写真や参考画像の扱いについて、アシスタントの側に確認の責任を置いた書き方です。

原作付き作品では、作画に由来する責任の上限が出版社との契約にないことも多く、アシスタントの素材の問題がそのまま漫画家の負担になりえます(出版社との基本契約)。アシスタントとの契約で第三者の素材の確認と報告を求めておくことは、漫画家自身を守るための条項でもあります。

よくあるご質問

アシスタントが描いた背景の著作権は誰のものですか?

業務委託のアシスタントが描いた背景に創作性があり、アシスタントが著作者になる場合は、契約で譲渡を定めなければ著作権はアシスタントに残ります。27条・28条の権利を含めて譲渡し、著作者人格権を行使しない旨を定めるのが通常です。

アシスタントは担当した原稿をポートフォリオに載せてもよいですか?

契約しだいです。事前の書面の承諾を要する型、作品の公開後に参加した事実だけを公表できる型、作品の一部であることを明示すれば担当部分を実績に使える型などがあります。

作業前後の比較画像をSNSに載せるのは問題ですか?

担当箇所や制作過程が分かるため、契約で禁止している例があります。作品の公開後でも、担当箇所を明らかにしないよう求める定め方です。

アシスタントの名前をクレジットに載せる義務はありますか?

契約で義務とすることもできますが、事務所が作成した契約ではいずれも義務とはせず、著作者人格権の不行使で処理していました。載せる場合の表記の方法は漫画家が指定する形がとれます。

アシスタントが作った3Dモデルを別の作品でも使えますか?

契約で成果物の範囲に制作素材を含め、その権利も移転させているかどうかによります。完成原稿だけを対象にしている場合は、別途の合意が必要です。

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