このページの要点
- 二次的著作物の著作権は作画者に生じ、原作者は同じ種類の権利を持つ(著作権法28条)。
- 共同著作物なら、共有著作権は全員の合意がなければ行使できない(著作権法65条2項)。契約がどちらを前提にしているか確認する。
- 原作に由来する問題と作画に由来する問題を分け、作画に由来する責任の上限を確認する。
- 原作者の確認が要る変更の範囲と、グッズ化・映像化の同意の取り方を出版社に確かめる。
結論:原作付き漫画は「二次的著作物」。利用には原作者と作画者の双方の権利処理が要る
小説のコミカライズや、原作者がシナリオ・プロットを書いて作画者が漫画にする分業では、作画者が描いた漫画は、原作を原著作物とする二次的著作物になるのが基本です。二次的著作物とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいいます(著作権法2条1項11号)。
二次的著作物の著作権は作画者に生じますが、二次的著作物に対する保護は原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさず(同法11条)、原作者は、その漫画の利用について、作画者が持つのと同じ種類の権利を専有します(同法28条)。つまり、原作付き漫画を単行本にする、電子配信する、グッズにする、映像化するといった利用には、作画者と原作者の双方の権利処理が必要になります。
利用する者は、作画者の権利と、原作者が28条で持つ権利の両方を処理する必要があります。原作者は、二次的著作物の公衆への提供に際して、原著作物の著作者名を表示する権利も持ちます(著作権法19条1項後段)。原作クレジットの根拠です。
事務所の資料では、この関係が二つの方向で出てきます。一つは小説を漫画にする方向で、漫画家が出版社とだけ契約し、原作小説家とは直接契約していない構造でした。もう一つは漫画を映像にする方向で、漫画家が原作者の立場に立ち、映像制作会社に原作の利用を許諾する構造です(映像化の原作使用許諾)。同じ漫画家でも、作画者として原作者の権利を受ける側に立つ場面と、原作者として権利を出す側に立つ場面がある、ということです。
二次的著作物か、共同著作物か
原作付き漫画で次に問題になるのが、原作者と作画者の関係が「原著作物と二次的著作物」なのか、「共同著作物」なのかです。共同著作物とは、二人以上の者が共同して創作した著作物で、各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいいます(著作権法2条1項12号)。
| 観点 | 二次的著作物の関係 | 共同著作物の関係 |
|---|---|---|
| 著作者 | 漫画の著作者は作画者。原作者は原著作物の著作者 | 原作者と作画者が共同の著作者 |
| 原作者の権利 | 漫画の利用について、作画者と同じ種類の権利を持つ(28条) | 共有する著作権の持分を持つ |
| 権利の行使 | 作画者の権利行使に原作者の権利が重なる | 共有著作権は共有者全員の合意によらなければ行使できない(65条2項) |
| 著作者人格権 | それぞれが自分の著作物について持つ | 著作者全員の合意によらなければ行使できない(64条1項) |
どちらの関係に当たるかで、作画者が単独でできることの範囲が大きく変わります。
事務所がレビューした出版社作成の基本契約の第25条1項は、作品が漫画家と第三者の共同著作物に当たる場合、基本契約と個別契約が、出版社とその共同著作者との契約の影響を受けうる、という調整の条項でした。報告書の評価は、原作小説の著作者が翻案された漫画の表現について共同著作者と評価される場面は限られると考えられる(原作者は通常、二次的著作物の原著作者として28条の権利を持つ立場)、というものです。ただ、契約がその可能性を前提にした調整条項を置いている以上、権利関係の見通しに影響しうるため、Bランク(要確認)とし、原作小説家が共同著作者と扱われる場面を出版社が想定しているのかを確認しておくよう勧めました。
共有著作権の行使の一般論は、姉妹サイトのキャラクター・グッズのライセンス契約書の解説にゆずり、ここでは「原作付き漫画では、契約上どちらを前提にしているのかを確認する」という点に絞ります。
二次的著作物の関係は、何段にも重なります。原作小説を漫画にした作品を、さらに海外で翻訳する場合、翻訳版は漫画を原著作物とする二次的著作物であり、その漫画は原作小説を原著作物とする二次的著作物です。漫画の著作者(作画者)は翻訳版の利用について28条の権利を持ち、原作小説の著作者も、漫画の利用について作画者と同じ種類の権利を持つ以上、翻訳という利用にも権利が及びます。原作付き作品の海外展開で、作画者の許諾だけでなく原作者の側の権利処理が必要になるのはこのためです。翻訳ライセンスの読み方は印税・使用料と海外翻訳で扱っています。
原作者の権利を確認した最高裁判決
原作付き漫画の権利関係を考えるときに必ず参照されるのが、キャンディ・キャンディ事件の最高裁判決(最判平成13年10月25日第一小法廷、平成12年(受)第798号、判例時報1767号115頁)です。原作者が各回のストーリーを小説の形式の原稿で作り、漫画家がそれに依拠して漫画化する、という手順が繰り返された連載漫画について、最高裁は、漫画を原作者の原稿を原著作物とする二次的著作物と判断し、原作者が漫画の利用(図柄を使ったリトグラフや絵葉書の製作など)についても28条に基づき権利を行使できると認めました。
この判決が示すのは、作画者が描いた絵だけを切り出して使う場面でも、原作者の権利が及びうるということです。作画者が原作付き作品のキャラクターを使ったイラストを自分の画集やSNSで使う、グッズにする、といったときにも、原作者の権利を考える必要があります。事務所は、漫画の映像化の許諾の契約を組み替えた際の説明資料で、映像化の許諾でも同じ構図になるとして、原作者の改変・グッズ化への同意の権利を契約で具体化することに合理性がある、と説明しました。
原作に起因する問題と、作画に起因する問題を分ける
レビューした基本契約は、作品が第三者の権利を侵害した場合の責任を漫画家が負う(第8条2項)としつつ、第8条1項ただし書で、原作小説そのものに起因する問題については漫画家は保証の責任を負わない、と定めていました。報告書はこれを「責任の切り分け自体は行われている」と評価し、そのうえで残る問題、つまり漫画家自身の作画に起因する責任に上限がないことに焦点を移し、故意・重大な過失がない場合の上限を交渉事項に挙げました(出版社との基本契約)。
原作付き漫画で責任を分けるときの区分
ストーリー・設定・台詞
原作のストーリーや設定、台詞が第三者の権利を侵害していた場合。作画者が保証の対象から外せるかを確認します。
絵・構図・資料の使い方
作画者の描いた絵や構図、背景に使った資料写真などに由来する場合。作画者の責任になりやすく、上限の有無が問題になります。
原作付き漫画の作画者は、この区別が契約にあるかを最初に確認します。
交渉で示す条文の例(原作付き作品の保証と上限)
1漫画家は、本件漫画作品が第三者の権利を侵害しないことを保証します。ただし、原作そのもの(ストーリー、設定、台詞その他原作に由来する部分)に起因する問題については、この限りではありません。
2前項の保証に違反したことによる漫画家の損害賠償の額は、漫画家に故意又は重大な過失がある場合を除き、当該違反が生じた日の直前の一定期間に漫画家が受け取った著作権使用料の額を上限とします。
第1項ただし書は、レビューした契約にあった切り分けを、原作に由来する部分の例示を加えて書いたものです。第2項は報告書が交渉事項として挙げた上限の考え方を条文の形にしたもので、期間の長さは交渉で決めます。
原作クレジットも、原作付き漫画では原作者の権利の問題です。原作者は、二次的著作物の公衆への提供・提示に際して、原著作物の著作者名を表示する権利を持ちます(著作権法19条1項後段)。単行本の表紙や電子配信の作品ページに「原作」として原作者の名前が並ぶのは、この権利に基づくものです。作画者の側では、販促の素材やSNSの告知で作品を紹介するときにも、原作者の表示が求められるかを確認しておきます。
作画に由来する問題には、アシスタントが描いた背景や、アシスタントが組み込んだ素材も含まれます。アシスタントから漫画家、漫画家から出版社へと権利を引き継ぐ途中に、権利処理の分からない素材が混じると、最終的に漫画家が出版社に対して負う保証に響きます。アシスタントとの契約で第三者の素材を使う前の確認と報告を求めておくのは、この連鎖を断たないためです(アシスタントの描いた部分の権利)。
作画者が原作者と直接契約しない構造で確かめること
小説を漫画にする場面では、出版社が原作者と作画者のそれぞれと契約し、作画者は原作者の契約の内容を知らないことが多くあります。レビューした契約にも、原作者の確認の手続に関する定めは見当たらず、出版社と原作者との契約に委ねられていたと見られます。作画者の側は、自分の契約に「原作者との契約の影響を受ける」旨の条項があれば、その影響の中身を出版社に確認しておきます。
ヒヤリングで確かめること 原作付き作品の作画を引き受けるときの確認
原作者の確認が必要なのは、どの段階のどの変更ですか。
ネーム・構図・台詞の変更のどこまでが作画者と編集部の裁量で、どこから原作者の確認が要るのかが決まっていないと、描き直しの原因になります。
グッズ化・映像化のとき、原作者の同意は誰がどう取りますか。
原作者の28条の権利が及ぶため、同意の取り方と、作画者に連絡が来るかどうかを確認します。
グッズ化・映像化の収益は、原作者と作画者でどう分けられますか。
原作者との契約の影響を受ける条項がある場合、分配の割合が作画者の収入に直結します。
契約に共同著作物を前提とした条項がありますか。その趣旨は何ですか。
原作者が共同著作者と扱われると、作画者が単独で権利を行使できなくなる場面があります。
作画者が自分のSNSや画集で原作付き作品の絵を使える範囲はどこまでですか。
原作者の権利が及ぶため、契約上の扱いを先に確認します。
映像化の許諾の契約では、事務所は演出・カットの追加・効果音やアドリブの追加などの改変について、事前に原作者へ確認して書面の承諾を得る、ただし基本的構成要素に重大な影響を及ぼさない軽微な変更は除く、と定めました。小説を漫画にする場面でも同じ発想が使えます。コマ割りや構図の工夫は作画者と編集部の裁量、ストーリーの順序の入替えや台詞の変更、登場人物の追加は原作者の確認が必要、というように、どの種類の変更から原作者の確認が要るのかを、作画を始める前に決めておくと、描き直しの原因を減らせます。
原作付き作品の絵を自分で使いたいときの確認の順序
- 自分の契約の二次利用の条を読む出版社との契約で、漫画家自身の二次利用が制限されていないかを確認します。レビューした契約にも、漫画家自身の二次利用を制限するまとまりがありました。
- 原作者の権利が及ぶことを前提にする作画者が描いた絵でも、原作付き作品である限り、その利用には原作者の28条の権利が及びます。
- 許諾の窓口を確かめる作画者が原作者と直接契約していない場合、許諾の申入れは出版社を通じて行うのが通常です。
- 表示の方法を決める原作者の氏名の表示(原作クレジット)の要否と方法を、許諾の条件と一緒に確認します。
アシスタントが原作に触れるとき
原作付き作品では、作画のアシスタントも原作のテキストや編集部の方針に触れます。事務所が作成した作画アシスタント向けの契約書は、秘密情報の定義に「原作、キャラクター設定、ネーム、プロット、作画指示書、未発表の原稿、編集者からの指示」を挙げ、秘密保持契約書(NDA)も「原作、プロット、ネーム」「作画指示書、編集方針、口頭指示」を挙げました。漫画家が原作者や出版社に対して負う守秘の範囲を、アシスタントの守秘の範囲にそのまま引き写す書き方です(未発表原稿・ネームの秘密保持)。
別の漫画家の書類一式では、NDAに、秘密情報について著作者・共同著作者・共同創作者その他これに類する地位を主張しないこと、漫画家又は正当な権利者による利用・改変・公表・翻案・出版・映像化・商品化に異議を述べないことを定め、秘密情報を閲覧・受領したことを理由とする権利主張も禁じました。違反して出願・登録などで権利化した場合は、権利の移転・抹消・放棄に無条件で協力させます。原作付き作品では「正当な権利者」に原作者が含まれ、アシスタントの主張が原作者の権利処理にまで波及することを防ぐ意味があると考えられます。
漫画が原作になるとき:契約に書いた権利関係
漫画を原作として映像化する場面では、漫画家が原作者の側に立ちます。事務所が映像制作会社のご依頼で作成した原作使用許諾契約書では、当初版(買切り型)で「本映像作品の著作権は制作会社に帰属する」としつつ、著作権法27条・28条が適用されると定め、改変・グッズ化には原作者の事前の同意を要する設計にしていました。
事務所の書類での扱い 映像作品の権利関係の書き方
二次的著作物の位置づけ
理由売上分配型では契約が長く続き、満了後も完成作品の販売が続くため、二次的著作物であることを条文に書いておく意味が大きくなるため。
原作の改変
理由ボイスコミックでは声優のアドリブや効果音の追加が典型的な改変の場面になるため。
同じ契約では、原作者は映像作品に関して著作者人格権を行使しないとする一方、制作会社が原作の趣旨を著しく損なう改変をした場合や、原作者の名誉・声望を著しく毀損する行為をした場合には、合理的な範囲で意見を申し入れることができる、と定めました。差止めのような拒否権は与えないものの、原作者の声を届ける経路を残す折衷で、事前の承諾が必要な改変と、事後の意見の申入れの二段で原作者の関与を設計しています。独占の範囲も「同一又は類似の用途」での第三者への許諾の禁止として画し、小説化など別の用途は直ちには制限しない形にしました。
原作の範囲の決め方にも工夫がありました。当初版では、利用できる「本原作」に、①ストーリー・キャラクター・設定・世界観・作中用語・セリフ・文章などの構成要素、②イラスト・作画・表紙デザイン・ロゴなどの視覚的要素に加えて、③原作者が本原作に付随して創作したスピンオフ・外伝・設定資料を挙げ、③を対象に含めるかどうかは協議のうえ別途定める、としました。売上分配型への組替え後の契約書案では、①②に絞っています。原作に関連作品がある場合、どこまでが許諾の対象かを契約で先に決めておくと、外伝のキャラクターを登場させてよいか、といった疑問が後から生じにくくなります。
買切り型から売上分配型への組替えの説明資料では、定義・著作物・権利関係・秘密保持・反社会的勢力の排除などの条項は、対価の方式に左右されないため実質を維持し、二次的著作物に関する権利の整理だけを補強する、と位置づけました。改変やグッズ化に原作者の事前の同意を求める設計は、最高裁判決が確認した原著作者の権利を契約の上で具体化したものとして合理的であり、そのまま残したものです(原作使用料の売上分配)。
よくあるご質問
原作付き漫画の著作権は、原作者と作画者のどちらのものですか?
作画者が描いた漫画は、原作を原著作物とする二次的著作物になるのが基本で、著作権は作画者に生じます。ただし原作者は、その漫画の利用について作画者と同じ種類の権利を持ちます(著作権法28条)。
作画者が自分の描いた原作付き漫画の絵をグッズにしてもよいですか?
原作者の権利が及ぶため、原作者(実務上は出版社を通じて)の許諾が必要になるのが通常です。自分の契約の商品化の条項も確認します。
原作者と作画者は「共同著作者」になりますか?
原作者が漫画の表現そのものを共同で創作したといえる場合でなければ、通常は原著作物と二次的著作物の関係です。契約書に共同著作物を前提とした条項がある場合は、その趣旨を出版社に確認します。
原作に問題があって訴えられたら、作画者も責任を負いますか?
契約しだいです。原作そのものに起因する問題については作画者は保証しない、と切り分けている契約もあります。自分の契約にこの切り分けがあるか、作画に由来する責任に上限があるかを確認します。
原作クレジットは、法律上の根拠があるのですか?
原作者には、二次的著作物の公衆への提供に際して、原著作物の著作者名を表示する権利があります(著作権法19条1項後段)。契約では、表記する場所や表記できない場合の扱いを決めておきます。
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