原作使用料を売上分配型(レベニューシェア)にする

買切りから売上分配への切替えは、条項の書換えではなく、契約全体の組直しです。

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起算日を「販売開始日」と書き換えるだけだと、制作期間中に原作を使う契約上の根拠がなくなりかねません。

このページの要点

  • 最初に「売上」の定義を決める。手数料・返金・税込税抜・無料公開・セット販売の扱いを含める。
  • 契約の効力は締結日から、分配期間は販売開始日から、と二段構えにし、販売開始日は通知で確定させる。
  • 毎月の報告と、管理画面の写しなどの資料の開示を、原作者が確かめる手段として置く。
  • 違約金は「使用料の3倍」のままにせず、無断利用期間の売上相当額を基準に計算できる形にする。

結論:買切りから売上分配への切替えは、条項の書換えではなく「契約の組直し」

原作使用料を、締結時の一括払い(買切り型)から、販売の売上に応じた分配(売上分配型、レベニューシェアとも呼ばれます)に変えたい、という相談は、漫画の映像化や電子配信で起きやすいものです。事務所が映像制作会社のご依頼で扱った案件で、説明資料に書いた結論は「条項の文言の修正ではなく、契約書全体を組み直す必要がある」というものでした。

買切り型の契約は、「使用料は締結時に一度だけ発生し、その一回の支払で関係が完結する」という前提の上に、契約期間の起算点、終了後の処理、違約金の算定の基準までが組み立てられています。対価を「点」(締結時の1回)から「線」(販売が続く限り毎月発生する)に変えることは、お金の流れだけでなく、契約が生きている時間の長さそのものを変える変更です。使用料の条だけを差し替えると、他の条が古い前提のまま残り、計算できない違約金や、根拠のない期間が生まれます。

このページでは、同じ依頼者の原作使用許諾契約を、買切り型から売上分配型へ組み替えた一式(ヒヤリングシート、説明資料、契約書案)をもとに、売上分配型で決めることを順に整理します。分配率などの具体的な数値は伏せています。映像化の許諾の基本的な形は映像化の原作使用許諾で扱っています。

前提事実の変更と、ヒヤリングで確定した条件

経緯は次のとおりです。締結時に1ページ当たりの単価に利用ページ数を掛けた額を一括で払う買切り型の契約書を作成して納品した後、原作使用料をダウンロード販売の売上の分配に変えたい、というご相談がありました。事務所は現行の契約を条項ごとに検討し、一部の修正では対応できず、全体の組替え(新規の作成)が必要であることをご案内したうえで、確認事項とヒヤリングシートへの回答を受けて起案しました。

ヒヤリングを経て確定した条件
項目確定した内容
分配の対象ダウンロード販売の売上のみ(各販売サイトの手数料を控除した後)
分配率一定の割合(数値は伏せます)
前払金・最低保証なし。完全な出来高制
分配期間最初の販売開始日から2年。自動更新なし
満了後制作会社が無償で販売を継続できる
セール制作会社が主導するセールは実施しない。販売サイトが主催するセールは特例なく通常どおり分配
支払売上月の翌々月25日。振込額が一定額未満なら繰越し。振込手数料は原作者の負担
別途協議ストリーミング・放送・グッズの収益と、パッケージ化の転用料

完全な出来高制は、制作会社にとっては売れなければ払わなくてよい仕組みですが、原作者にとっては販売が始まらない限り1円も入らない仕組みです。そのため、ヒヤリングシートでは、販売がいつまでも始まらない場合に原作者が解除できる定めを置くかどうかも確認しました。原作者の側から必ず質問が出る箇所なので、制作会社の側で先に答えを用意しておくと、締結が円滑になります。

どの条をどう組み替えたか

現行(買切り型)の条項と組替え後
現行の条項修正の程度組替え後
使用料(ページ単価×一括払い)大算定の方法を廃止し、「分配対象売上×分配率」を新しく設計(第9条)。売上の定義を独立の条に(第10条)
利用期間(締結日から起算・90日前の異議がなければ1年ずつ自動更新)大契約の効力は締結日から、分配期間は販売開始日から2年の二段構え。自動更新を削除(第8条)
違約金「使用料の3倍」(3か所)大「無断利用期間の分配対象売上相当額×分配率×3倍」に置き換え(第18条)
終了後の扱い(新規販売の停止・既に流通した分だけ一定期間販売可)中満了と解除を書き分け、満了の場合に限り完成済みの作品の無償・無期限の販売継続(第16条)
セール・パッケージ・売上の報告中(新設)第11条〜第13条を新設
源泉徴収・フリーランス法中(新設)支払の条に源泉徴収、追加作業の条に60日以内の支払(第14条・第15条)

説明資料では、論点ごとに深刻度と「対応しないまま締結した場合に起きうること」を一覧にしました。条文の問題を、条文の言葉ではなく「起きること」で示すと、なぜ全体を組み直す必要があるのかが伝わりやすくなります。

対応しないまま締結した場合に起きうること(説明資料の整理)
論点深刻度起きうること
使用料の条項大分配の母数が決まらず、毎月の分配額が争いになる
期間の起算点大制作期間中の原作の利用の根拠が不明確になり、起算日をめぐる水掛け論になる
違約金大計算できる額がなく、抑止の効果を失う
終了後の扱い中満了後の販売の継続が、現行の条文の上では無断利用と評価されかねない
フリーランス法中追加作業の発注で、明示義務や60日以内の支払の違反として指導・勧告の対象になりうる
源泉徴収中徴収を怠ると、支払う側が不足額を納める義務を負う

最初に決めるのは「売上」の定義

説明資料の指摘は、売上の定義と報告の義務を欠いたまま「〇%を支払う」とだけ定めると、何を母数に計算するのか、報告を怠ったときにどう是正するのかが決まらず、分配額をめぐる紛争の火種になる、というものでした。売上分配型の契約で一番時間をかけるべきなのは、分配率ではなく、この定義です。

ヒヤリングで確かめること 「売上」の定義のためにヒヤリングシートで確認した項目

  1. 販売を予定しているサイトはどこですか。海外のユーザーへの販売分も、国内と区別せずに分配の対象に含めますか。

    許諾は日本国内での独占的な利用でも、ダウンロード販売のサイトでは海外向けのストアや多言語のストアを通じて海外のユーザーに売れることがあります。許諾の地域と購入者の地域がずれることを、定義の段階で処理します。

  2. 分配の基礎は、販売サイトから実際に入金された額ですか、売上レポート上の手数料控除後の額ですか。

    通常はほぼ一致しますが、入金時期のずれや、サイト側の返金の調整の扱いが変わります。

  3. 税込ですか、税抜ですか。原作者はインボイスの登録をしていますか。

    分配金が消費税相当額を含むのかどうかを、定義の中で決めておく必要があります。

  4. 返金・キャンセル・チャージバックが起きたら、発生した月の売上から控除しますか、支払済みの分配額を翌月以降の分配額から差し引きますか。

    どちらの方式かで、月ごとの計算と精算の手順が変わります。

  5. 1円未満の端数はどう扱いますか。

    切捨てにするのが計算として明快です。

  6. 販売手数料のほかに、ポイント還元の原資やアフィリエイト報酬が控除されるサイトはありますか。

    これらも手数料に含めて控除後の額を基礎とするかを決めます。

  7. 無料パート・体験版や、広告収益を伴う無料公開はどう扱いますか。

    無償の公開は売上が発生しないので分配の対象外とし、広告収益は別の収益の形として扱いを決めます。

  8. 複数の作品やエピソードを1本のセット商品として売る予定はありますか。

    セットの売上をどう按分するかの定めが必要になります。

売上分配型の契約書案 第10条(分配対象売上)の要旨

1分配対象売上とは、暦月ごとに、当該月中のDL販売について購入者から受領した金額の合計から、各プラットフォームが徴収する手数料と、返金・取消しにより購入者に返還した金額を控除した額をいいます。

2分配対象売上に分配率を乗じた額(1円未満切捨て)を分配金とし、分配金は消費税相当額を含むものとします。

DL販売とは、インターネットを通じたダウンロード形式による有償の頒布として、別の条で定義しています。定義に地域の区別は置いていません。

二段構えの期間と、販売開始日の通知

買切り型の利用期間は、締結日から起算し、90日前までに異議がなければ1年ずつ自動更新する形でした。売上分配型で「販売開始から2年」とする条件を入れるとき、起算点を単純に「販売開始日」に書き換えると、締結から販売開始までの制作期間中、原作を使う契約上の根拠がない状態が生じかねません。説明資料はこの点を「大」の論点として挙げました。

契約の効力と分配期間の二段構え(第8条)
締結日契約の効力が生じる。制作を始められる
制作期間(原作の利用は契約で根拠づけ)
販売開始日販売開始日と販売サイト名を原作者に通知
分配期間2年(自動更新なし)
満了日完成済み作品は無償で販売継続

継続が必要なら、満了時に別途協議して契約の更新又は再締結を定めます。

組替え後は、契約は締結日に効力を生じ、同日以降の制作をカバーします。最初にダウンロード販売を始めたときは、販売開始日と販売サイト名を書面又は電子メールで原作者に通知する義務を新設し、その日から2年を分配期間としました。通知の義務がないと、いつから2年を数えるのかが原作者には分からず、満了日をめぐる争いになります。

ヒヤリングシートでは、制作会社の判断で販売を停止・終了しても、契約自体は期間の満了まで続く(販売の停止をもって契約の終了としない)扱いでよいか、自動更新は置かないが満了時に書面で合意すれば延長できる旨の確認の規定を置くか、も確認しました。契約書案では「別途協議のうえ、契約の更新又は再締結について定める」としています。

セール・価格・売上の報告

売上分配型では、販売価格がそのまま原作者の取り分に直結します。依頼者のご希望は、制作会社が主導するセールは「禁止」ではなく「実施しない」という自制の形で書くこと、販売サイトが主催するセールは通常どおり分配すること、でした。

事務所の書類での扱い セールと価格の条

制作会社が主導するセール

改訂前定めなし。(買切り型では価格が原作者の取り分に影響しないため不要だった)
改訂後制作会社は自ら主導するセールを実施しない、と自制の形で規定した(第11条)。クーポンの発行やポイント増量の企画への参加の申込みなど、実質的な値引きも含めるかをヒヤリングで確認した。

理由セールを繰り返されると原作者の取り分が想定より大きく減るため。禁止ではなく自制にしたのは依頼者のご希望による。

サイトが主催するセール

改訂前定めなし。(同)
改訂後販売サイトが主催するセール・キャンペーン・クーポンの対象になった売上は、特例なく分配の対象に含める。

理由制作会社が関与しない値引きまで分配を減らす理由にしないため。

通常価格の設定・変更

改訂前定めなし。(同)
改訂後①制作会社の裁量、②値下げの場合だけ原作者の事前の同意、③すべて原作者と協議、の選択肢を示して確認した。セールの自制を契約期間中に限り、満了後は価格もセールも制作会社の自由とするかもあわせて確認した。

理由値上げ・値下げが原作者の取り分に直結するため。

報告の条(第13条)では、暦月ごとに、販売サイト別の販売数量・売上金額・手数料控除後の金額を記載した報告書を翌月末日までに提出することとし、原作者は疑問があるときに、販売サイトの管理画面の写しなどの提示を求められる、としました。原作者が報告の正確さを確かめる手段として置いた条で、ヒヤリングシートでも「原作者側の安心材料となり、締結が円滑になる」として設けることを勧めていました。出版の使用料と同じく、売上分配型では、受け取る側が数字を確かめる手段がなければ、分配率をいくら交渉しても意味が薄くなります(印税・使用料と海外翻訳)。

報告と支払の日程を並べると、売上のあった月の翌月末日までに報告書が届き、その翌月の25日に支払われる、という流れになります。原作者の側には、報告書を受け取ってから支払日までの間に内容を確かめ、疑問があれば資料の提示を求める時間が確保されます。報告の期限と支払の期限を別々に決めておくことで、報告が遅れたまま支払だけが行われる、あるいは支払が先に来て確かめる機会がない、という状態を避けられます。

支払・繰越し・源泉徴収と、追加作業の対価

支払の条(第14条)は、売上月の翌々月25日払い(休業日なら直前の営業日)、一定額未満は繰り越して合算でその額以上になった月に支払う、振込手数料は原作者の負担、としました。繰越しについては、「当月分と前月までの繰越残高の合計が一定額未満なら繰り越す」という計算の方法と、契約終了時には金額にかかわらず繰越残高を全額精算する、という定めでよいかをヒヤリングシートで確認しました。少額の繰越しが契約の終了で宙に浮くことを防ぐためです。

源泉徴収を要する場合は、税額を控除して残額を支払い、納付し、支払調書などを交付する、としました。所得税法204条1項1号は、著作権の使用料を源泉徴収の対象として挙げています。説明資料では、ページ単価でも毎月の分配金でも、実質が原作の利用の対価である以上、この源泉徴収の義務が問題になりうると説明しました。

追加作業の条(第15条)は、追加のイラスト・レイヤー分け・書き下ろしなどを頼むときは、作業内容・対価・納期を書面又は電子メールで示して原作者の事前の承諾を得ること、成果物の受領日から60日以内に支払うこと、一方的に要求しないこと、を定めました。完成済みの漫画の利用許諾そのものは「作成の委託」ではないためフリーランス法の情報成果物の作成の委託には当たりませんが、追加作業の発注は新たな作成の委託に当たりえます。相手方の原作者が特定受託事業者(従業員を使用しない個人など)であれば、発注する側には明示の義務(同法3条1項)がかかり、発注する側が特定業務委託事業者(従業員を使用する、又は二以上の役員がいる法人)であれば、60日以内の支払期日の定め(同法4条1項)もかかります。毎月の分配金(継続的なライセンスの対価)と追加作業の対価は性質が違うため、条文の上でも分けて書きました(アシスタントの業務委託契約)。

違約金の算定基準と、旧契約からの巻替え

違約金とは、契約に違反したときに払うと約束しておく金額で、特に定めがなければ賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。賠償額の予定(同条1項)があれば、実際の損害の額を立証しなくても、その額を請求できると解されています。説明資料の指摘は、違約金は基準額が契約時に客観的に算定できて初めて機能する、というものでした。売上分配型では使用料の総額が販売の続く限り増え続け、事前に確定しないため、旧契約の「使用料の3倍」は計算の基礎を欠きます。

違約金の基準としてヒヤリングシートで示した選択肢

案1

分配金の累計額を基準にする

原作者に支払われた分配金の累計額の一定倍とする方法です。

案2

固定額にする

金額を契約書に書き込む方法です。作品の売れ行きと関係なく決まります。

案3

定額を置かない

違約金を置かず、実際の損害の賠償による方法です。

案4

推奨案に一任

事務所の推奨する案に任せる選択肢です。

契約書案では、旧条項の「3倍」という抑止の水準を保ちつつ、計算できる基準にしました。解除後・満了後の無断利用には「無断利用期間の分配対象売上相当額×分配率×3倍」とし、期間や売上が明らかでないときは「直近12か月の分配金合計×3倍」で代えられるようにしました。反社会的勢力の排除の条の違約金も「解除日までの分配金累計×3倍」にそろえています。

売上分配型では、解除の手続も分配の流れに合わせて書きました。相手方の違反には書面で催告し、14日以内に是正されなければ解除でき、性質上是正が不可能な違反は催告なしに解除できます。支払不能や倒産手続の申立ても催告なしの解除の事由です。そのうえで、解除は解除までに生じた債権債務に影響しない、と明記しました。解除で分配の流れが止まっても、解除前の売上に対応する分配金を支払う義務は残る、ということを条文で確認しておく意味があります。不可抗力の場合は、誠実に協議して履行の猶予、契約内容の変更又は解除を定めます。

支払が遅れた場合の遅延損害金も、買切り型の率(年14.6%)を維持するかをヒヤリングシートで確認しました。買切り型では支払は締結時の1回だけでしたが、売上分配型では毎月支払が発生するため、遅延の定めが働く場面はむしろ増えます。説明資料は、原作の利用許諾の契約を有償の契約として整理していました。売買以外の有償の契約にも、その性質が許さない場合を除いて売買の節の規定が準用されます(民法559条)。

最後に、旧契約からの巻替えです。ヒヤリングシートでは、新しい契約を今後の新規の案件から使うのか、締結済みの旧契約も巻き替えるのかを確認しました。巻き替える場合は、支払済みの原稿代を精算せずそのままにするのか、今後の分配額に充当するのか、切替日をまたぐ売上をどちらの契約で扱うのか、という三つの点を決める必要があります。終了時の扱い(満了と解除の書き分け)は連載終了・打切りと契約終了で詳しく扱います。

よくあるご質問

買切り型の契約を売上分配型に変えるには、使用料の条項だけ書き換えればよいですか?

足りないことが多いです。契約期間の起算点、終了後の扱い、違約金の算定の基準が買切りの前提で作られているため、契約全体の組直しが必要になります。

売上分配型で最初に決めるべきことは何ですか?

分配の母数となる「売上」の定義です。税込・税抜、販売サイトの手数料、返金の扱い、無料公開やセット販売の扱いを決め、毎月の報告の義務とセットで書きます。

分配期間を「販売開始から2年」にすると、制作期間はどうなりますか?

契約の効力は締結日から生じるとし、分配期間だけを販売開始日から数える二段構えにすると、制作期間中の利用の根拠が確保できます。販売開始日は通知で確定させます。

原作者は、制作会社の売上報告が正しいか確認できますか?

契約に資料の開示の条項を入れておけば、販売サイトの管理画面の写しなどの提示を求められます。

最低保証のない完全な出来高制で、販売が始まらなかったらどうなりますか?

原作者には1円も入りません。一定の期間内に販売が始まらないときに原作者が解除できる定めを置くかどうかを、契約時に決めておきます。

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