このページの要点
- アシスタントには、生成物を成果物に使うことと、秘密情報を外部のサービスに入力することを分けて禁じる。
- 使ってよい描画ソフトの機能は、許可リストとして列挙する。
- 原作の映像化では、補助的な編集作業だけを原作者の書面による事前の承諾を条件に認める。
- AIマンガの投稿サービスでは、類似の画像は許諾を得るか大幅に手を加えることとし、運営者の削除の権限を置く。
結論:漫画の生成AIの条項は「誰に、何を禁じるか」を場面ごとに分けて書く
生成AIの取決め一般(使う・使わないの合意、入力の禁止、AIで生成した部分の著作権)は、姉妹サイトの制作での生成AIの使用と、契約での取り決めで扱っています。このページでは、事務所が作成した書類に出てきた、漫画の制作に固有の三つの場面を扱います。
漫画制作で生成AIの条項が出てくる3つの場面
漫画家がアシスタントにAIの利用を禁じる
未発表の原稿を外部のサービスに入れさせないことと、AIで作った画像を原稿に混ぜさせないことが目的です。
原作者が映像制作会社にAIでの作画・脚本の生成を禁じる
原作の絵柄やキャラクターを生成AIで再現させないことが目的です。
AIで作ったマンガの投稿サービスが、既存の作品との類似に対処する
運営者が作品の中身を事前に確かめられない中で、権利処理の責任をユーザーに置き、運営者は削除の手段を確保します。
三つの場面で、禁じる相手も、守りたいものも違います。場面1では漫画家が発注者として秘密と品質を守り、場面2では原作者が許諾する側として自分の絵柄を守り、場面3では運営者がプラットフォームとして第三者の権利の侵害に備えます。同じ「AI禁止」の条項でも、書き方が変わるのはこのためです。
場面1:アシスタントへの全面的な禁止
事務所が作成したアシスタント向けの書類のうち、A案件(このページでも、アシスタントの契約の案件をA〜Dの記号で示します)の業務委託契約書・規約・秘密保持契約書は、生成AIを全面的に禁止していました。中身は次の5つです。
| 項目 | 定め |
|---|---|
| 利用の禁止 | 対話型AI、画像生成AI、生成AIを搭載したサービス、機械学習のサービス、画像解析のサービス、自動補完のサービスその他名称を問わず、生成AI又は機械学習に該当しうるサービスを使わない |
| 入力の禁止 | 未発表原稿・ネーム・設定資料・キャラクター情報・ストーリー構成・プロット・参考写真・3Dデータ・制作素材・成果物を、生成AIや機械学習のサービスに入力・送信・アップロード・解析・学習・参照・変換・保存させない |
| 生成物の使用の禁止 | 生成AIで作った画像・素材・背景・線画・仕上げ・構図案・参考画像を、成果物や業務に使わない |
| 説明の義務 | 利用していないことの確認を求められたら、合理的な範囲で説明する |
| 制裁 | 即時解除の事由。入力した場合は定額の違約金の対象。秘密保持契約書でも同様の禁止と違約金 |
秘密保持契約書の側の生成AIの条項は、禁止の対象のサービスに文章生成のサービスやクラウドの学習サービスも挙げ、未発表原稿・ネーム・キャラクター設定・ストーリー構成・プロット・参考写真・3Dデータなどを、生成AIの「プロンプト、学習データ、参考資料又は解析対象」として利用してはならない、としました。成果物に生成物を使わなくても、ネームを読み込ませて構図案を出させる、設定資料を要約させる、といった使い方が流出につながるためです。秘密情報を使って生成AIに作らせた出力結果を第三者に提供することも禁じました。
未発表のネームや原稿は、漫画家の公表権(まだ公表されていない著作物を公衆に提供し、又は提示する権利。著作権法18条1項)の対象でもあります。外部のサービスに入力されたデータがどう扱われるかは、そのサービスの規約によって違うため、発注者の側では、契約で入力そのものを禁じておく意味があります(未発表原稿・ネームの秘密保持)。
画像解析のサービスまで禁止の対象に入れていることにも理由があります。生成AIで画像を作らなくても、ネームの画像を解析サービスに読み込ませて台詞を文字に起こす、構図を分析させる、といった使い方で作業時間を短縮しようとすると、未発表のネームが外部のサービスに送られることになります。アシスタントにとっては作業の効率化のつもりでも、漫画家にとっては未発表原稿の外部への送信です。禁止の対象を「生成」だけに限らず「入力・解析」まで広げたのは、この場面を想定したものと見られます。
違反の効果の三段と、「3D素材は認め、生成は禁じる」線引き
A案件の契約書は、違反の効果を三段で用意していました。生成AIを使っていないことの確認を求められたら合理的な範囲で説明する義務(第14条4項)、生成AIや機械学習のサービスを利用した場合の催告なしの解除(第23条2項3号)、提供資料・成果物・秘密情報を生成AIに入力・送信・アップロード・学習させた場合の違約金(第25条1項2号)です。疑いの段階では説明、利用の事実があれば解除、秘密情報の入力には金銭の制裁、と段階を分けています。
A案件の違反の効果の段階
- 疑いがあるとき利用していないことを、合理的な範囲で説明してもらいます。
- 利用の事実があるとき催告をしないで契約を解除できます。
- 秘密情報を入力したとき定額の違約金の対象になります。秘密保持契約書でも同様です。
同じ契約書は、3Dモデルの配置・調整・下描きへの利用や、3Dモデル・素材の作成を業務範囲に入れ、漫画家が事前に承認した3D素材・有償素材の購入費は漫画家が負担する、としていました。そのうえで生成AIは全面的に禁止しています。人が選び、配置し、加工する素材は認め、学習データから画像を生成するものは禁じる、という線引きです(アシスタントの業務委託契約)。
A案件では、業務委託契約書・規約・秘密保持契約書のいずれにも生成AIの禁止と違約金を置き、実際の損害が違約金を上回るときは超過分も請求できる形にそろえていました(秘密保持契約書は「損害賠償額の予定ではない」、契約書・規約は「損害が違約金の額を超えれば超過額も請求できる」という表現)。複数の書類に違約金を置くときは、このように性格をそろえたうえで、一つの違反についてどの書類の違約金がかかるのかも整理しておくと、違反が起きたときの対応が明確になります。
描画ソフトの機能をどう扱うか
A案件は、「画像解析」「自動補完」「機械学習に該当しうるサービス」まで含めて広く禁止する方針をとりました。この方針は、描画ソフトに組み込まれた自動彩色や線画の補正のような機能も使わない前提で作業を頼む、ということです。描画ソフトの機能のどれがAIや機械学習に当たるのかは、ソフトごとに確かめる必要があります。
漫画家に、許したい道具と禁じたい道具がある場合は、禁止の対象を「生成物を成果物に使うこと」と「秘密情報を外部のサービスに入力すること」に分け、使ってよいソフトの機能を列挙する方が運用しやすくなります。
生成AIの条項の2つの組み方
A案件の方針
生成AI又は機械学習に該当しうるサービスの利用を、名称を問わず禁止します。禁止の範囲がはっきりしている代わりに、描画ソフトの補助的な機能も使わない前提になります。
禁止の中心と許可の範囲を分ける
①生成物を成果物に使うこと、②秘密情報を外部のサービスに入力すること、を禁止の中心にし、使ってよいソフトとその機能を別紙で列挙します。追加するときは漫画家の承諾を得ます。
どちらを選ぶかは、漫画家がアシスタントに使ってほしい道具があるかどうかで決まります。
許可リストの考え方を条文にした例
1アシスタントは、生成AIにより生成された画像その他の生成物を、成果物に使用してはなりません。
2アシスタントは、未発表原稿、ネーム、設定資料その他の秘密情報を、生成AIその他の外部のサービスに入力し、又は学習させてはなりません。
3前2項にかかわらず、別紙に定める描画ソフトの機能は、漫画家が許可したものとして使用することができます。別紙に定めのない機能を使用するときは、あらかじめ漫画家の承諾を得るものとします。
A案件の禁止の中身を保ちながら、禁止の対象と許可の範囲を分けて書いた例です。
A案件の規約の版では、存続条項を事項の名前で書き、「生成AI利用禁止」も契約の終了後に存続する事項に含めました。
出版社の側に生成AIの生成物の使用を制限する規定があるのに、アシスタントが背景をAIで生成して納品し、後でそれが分かる、という事態も起こりえます。出版社への納品の条件は、アシスタントへの指示書にも引き写しておく必要があります(納品・リテイク・検収)。
アシスタントの側から見ても、許可リストがあることには意味があります。全面的な禁止だけが書かれた契約では、使い慣れた描画ソフトの機能を使ってよいのかどうかを、毎回漫画家に問い合わせるか、自分の判断で使って違反のおそれを抱えるかのどちらかになります。使ってよい機能が明示されていれば、その範囲では安心して作業でき、迷う機能だけを事前に相談すれば足ります。
場面2:原作の映像化の許諾での「AI不使用」
映像制作会社のご依頼で作成した原作使用許諾契約書では、許諾を受ける側の制作会社が、原作の絵柄やキャラクターを生成AIで再現しないことを原作者に約束する形をとりました。原作者にとっては、自分の絵柄が生成の素材や学習に使われないことの担保になります。
事務所の書類での扱い 原作使用許諾の契約での生成AIの定め
位置づけ
理由ヒヤリングシートで現行の制限を維持するかを確認し、維持とされたため、独立の条として明確にした。
例外
理由ボイスコミックの制作では音声のノイズ除去にもAIを使う道具が多いため、その種の補助作業を承諾の対象として想定したものと見られる。
ここでのポイントは、例外を「補助的な編集作業」に限り、しかも原作者の書面の承諾を条件にしていることです。キャラクターデザイン・作画・脚本という創作の中心には使わせず、制作の効率に関わる補助的な作業だけを、原作者が個別に判断できるようにしています。映像化の許諾の全体は映像化の原作使用許諾で扱っています。
場面3:AIマンガの投稿サービスの利用規約
事務所が運営者の側で作成した、生成AIを利用したマンガ投稿サービスの利用規約は、まず言葉の定義から始めました。「画像生成AI」を、テキストから画像を生成するモデルと、画像から画像を生成するモデル、及びそれをクラウドで提供するサービスと定義し、「AI生成画像」をその生成ファイル、「AIマンガ」をAI生成画像と文字・漫画表現を組み合わせた作品と定義しています。画像から画像を生成するモデル(既存の画像を入力して変換するもの)を明示的に含めたのは、既存の漫画の1コマを入力して似た画像を作る使い方が、類似の問題に直結するためです。
事務所の書類での扱い 類似のAI生成画像についての条項
禁止事項
理由運営者は作品の中身を事前に確認できないため、類似の判断の考え方をユーザーに理解させる条項と、運営者の削除の権限を組み合わせるため。
権利の帰属と運営者の措置は、次のように組み立てていました。投稿されたAIマンガやコメントの著作権はユーザー自身に帰属するとしつつ、ユーザーは運営者に、非独占的な通常使用権を無期限で許諾します。運営者は利用促進のため、公式サイト・SNS・動画・広告などで作品を一部切り抜き、一部改変し、著作権表示を省略して使え、ユーザーは著作者人格権を行使しません。著作権を運営者に移さず、ユーザーが他のサービスで同じ作品を発表する自由を残す一方、運営者は投稿の削除後や退会後も、宣伝の目的の範囲で作品を使い続けられる構成と見られます。
| 項目 | 定め |
|---|---|
| 投稿作品の著作権 | ユーザーに帰属 |
| 運営者への許諾 | 非独占的な通常使用権を無期限で許諾。一部の切り抜き・一部の改変・著作権表示の省略を伴う利用を含み、ユーザーは人格権を行使しない |
| 違反への措置 | 是正の要求、投稿の削除・公開の停止、アカウントの停止・削除。措置の根拠を明示する義務を負わない |
| 表明保証 | 投稿コンテンツの権利の帰属・許諾の有無・法令違反の有無について、運営者は表明保証をしない |
| 類似についての免責 | 類似のAIマンガについて著作権者から訴えが提起されても、運営者は責任を負わない |
| 規約の変更 | 必要性・合理性に照らして変更でき、適切な手段で周知し、利用の継続又は相当期間の経過で同意したものとみなす。附則に施行日と変更の履歴 |
運営者が事前の審査をしない投稿型のサービスで、権利処理の責任をユーザーに置き、運営者には削除の手段を確保する構成です。
なお、この免責は運営者とユーザーの間の定めで、著作権者に対する運営者自身の責任まで免れさせるものではなく、ユーザーが消費者に当たる場合は、事業者の責任を全部免除する条項を無効とする消費者契約法8条にも注意が要ります。
第14条4項の「商用利用が可能なAIモデルの使用を推奨する」という定めは、義務ではなく推奨にとどめています。どのモデルを使うかはユーザーの選択に委ねつつ、モデルの利用条件の段階で商用の利用が認められていないものを使うと、作品の公開そのものが別の問題を生みうることを、ユーザーに意識させる一文です。
類似の作品について権利者から連絡が来たときの流れ(規約の条項に沿って整理)
- 連絡の内容を確かめるどの投稿の、どの画像が、どの既存の作品と似ているという主張かを確認します。
- 第14条2項に当てはめる著作権者の許諾を得ているか、まったく異なる著作物といえるほど大幅に手を加えているかを確かめます。
- 措置を決める違反と判断すれば、運営者の判断で投稿を削除できます(同条3項)。是正の要求、公開の停止、アカウントの停止などの措置もとれ、措置の根拠を明示する義務は負いません(第15条)。
- 責任の所在を整理する投稿コンテンツの権利処理はユーザーの責任とされ、類似のAIマンガについて訴えが提起されても運営者は責任を負わない、という定めを前提に対応します。
AIをめぐるルールは変化が早いため、類似の条項の追加のような改訂を前提にした変更の手続にしておくことも大切です。また、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号)。AIが生成した部分が著作物になるかどうかは、人の創作的な関与の有無によって分かれる、という考え方があります。投稿サービスの規約で「投稿作品の著作権はユーザーに帰属する」と書くときも、すべての投稿作品に著作権が生じることを保証する趣旨ではない、と理解しておく必要があります。
ヒヤリングで確かめること 生成AIの条項を書く前に確かめること
禁じたいのは、AIで作った画像を原稿に混ぜることですか、未発表の原稿を外部のサービスに入れることですか、その両方ですか。
目的によって禁止の対象と書き方が変わります。
アシスタントに使ってほしい描画ソフトの機能はありますか。
あるなら、許可リストとして列挙し、全面的な禁止との矛盾をなくします。
出版社や制作会社との契約に、生成AIについての定めはありますか。
漫画家が負う制限を、アシスタントへの条項に引き写します。
映像化の許諾で、補助的な編集作業へのAIの利用を認めますか。
認めるなら、例示と承諾の手続を決めます。
投稿サービスを運営するなら、類似の投稿を見つけたときに誰がどう判断して削除しますか。
削除の権限と、措置の根拠を明示しない定めを置くかを決めます。
よくあるご質問
アシスタントにAIを使わないよう求めることはできますか?
契約で禁止できます。「AIの生成物を成果物に使うこと」と「未発表の原稿などをAIのサービスに入力すること」を分けて書き、使ってよいソフトの機能を示しておくと運用しやすくなります。
描画ソフトの自動機能もAIの禁止に含まれますか?
契約の定義しだいです。「機械学習に該当しうるサービス」のような広い定義だと含まれる可能性があるため、許可する機能を列挙しておきます。
原作の映像化で、制作会社にAIを使わせない契約はできますか?
できます。キャラクターデザイン・作画・脚本の生成への利用を禁じ、色調補正やノイズ除去などの補助的な編集だけを、原作者の書面による事前の承諾を条件に認める定め方があります。
AIで作ったマンガの投稿サービスを運営する場合、規約に何を入れるべきですか?
投稿作品の権利の帰属と運営者への利用許諾、既存の作品と類似するAI生成画像の扱い(許諾を得るか大幅に手を加える)、違反した投稿の削除の権限、規約の変更の手続が基本になります。
アシスタントがAIを使っていないか、確かめる方法はありますか?
契約に、利用していないことの確認を求められたら合理的な範囲で説明する義務を置いておく方法があります。利用の事実があれば解除、秘密情報の入力には違約金、と効果を段階的に定めた例もあります。
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