連載終了・休載・打切りと契約終了時の精算

「いつ、どうやって終わり、終わった後に何が残るか」を契約ごとに決めておきます。

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打切りが決まってから、描きかけの背景の報酬をどう払うかを話し合うと、ほぼ確実に揉めます。

このページの要点

  • 出版社との契約は更新の期限(満了の6か月前など)を管理する。出版しないときは出版権の消滅の請求ができる(著作権法84条)。
  • 途中で止まった作業は、利益を受ける割合・履行の割合に応じた報酬が基本(民法634条・648条3項)。検収済みの成果物の精算を契約で決める。
  • 従業員を使用する漫画家・スタジオは、6か月以上の継続的な委託の解除・不更新に30日前の予告が要る(フリーランス法16条1項)。
  • 原作の利用許諾は、満了なら完成済み作品の販売継続、解除なら停止、と書き分ける。

結論:「いつ、どうやって終わり、終わった後に何が残るか」を契約ごとに決めておく

漫画の仕事は、連載の終了、休載、打切り、企画の変更といった、自分では決められない事情で止まることがあります。出版社との契約、アシスタントとの契約、原作の利用許諾の契約、海外の翻訳ライセンスのそれぞれで、①いつ、どうやって終わるのか(期間・更新・解除)、②途中で止まったときに何をどう精算するのか、③終わった後に何が残るのか(作品の販売・データ・秘密保持)を決めておく必要があります。

このページでは、事務所がレビュー・作成した契約の終了の条項を、契約の種類ごとに並べます。アシスタントとの契約は、このページでもA〜Dの記号で示します。

契約の種類ごとの終わり方(事務所が扱った契約)
契約期間・更新終了後に残るもの
出版社との基本契約原期間3年。満了の6か月前までに書面で通知しなければ1年ずつ自動更新終了後の頒布の定め。出版権の扱い
アシスタントとの契約期間の定めなし/1年の自動更新/5日間のスポット/案件ごと、と案件により違う権利の帰属・秘密保持・データの削除などの存続条項
原作使用許諾(売上分配型)分配期間は販売開始日から2年。自動更新なし満了なら完成済みの作品の無償・無期限の販売継続。解除なら利用の停止
海外の翻訳配信ライセンス1年。満了90日前までの通知がなければ1年ずつ自動更新翻訳成果物の独占地域での商業利用権はライセンシーに残る

出版社との契約:更新の期限と、出版権の消滅の請求

事務所がレビューした出版社作成の基本契約は、原期間3年で、満了日の6か月前までに書面で終了を通知しなければ、同一の条件で1年ずつ自動更新される定めでした(第21条・第22条)。報告書はこれをBランク(運用上の負担に関する事項)とし、条件の見直しをしたいなら更新の期限をカレンダーなどで管理するよう勧めました。期限を過ぎてから料率の見直しを申し入れると、同じ条件で1年が過ぎてしまいます。

解除の事由(第20条1項)は、手形の不渡り・差押え・破産の申立て・解散などで、文言上はどちらにも適用されますが、個人の漫画家の方が該当しやすいものです。報告書は、契約類型として一般的な条項であり是正の提案までは要しないとしたうえで、リスクの所在として認識しておくよう添えました(出版社との基本契約)。

単行本がなかなか出ない、電子版の配信が止まった、という場面では、出版権の規定が関わります。出版権者は、設定行為に別段の定めがない限り、原稿の引渡しを受けた日から6か月以内に出版行為(又は公衆送信行為)を行う義務と、慣行に従い継続して行う義務を負います(著作権法81条)。6か月以内の義務に違反したときは、著作権者は出版権者に通知して出版権を消滅させることができ(同法84条1項)、継続の義務に違反したときは、3か月以上の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がされないときに、通知して出版権を消滅させることができます(同条2項)。契約でこれと違う定めをしていることもあるので、まず自分の契約を確認します。

アシスタントとの契約:4案件の終わり方

アシスタントとの契約の期間・終了・精算(4案件)
案件期間漫画家の側の事情による終了終了時の精算・データ
A案件(契約書の版)期間の定めなし。協議のうえ終了連載の終了・休載・打切り・企画の変更・制作体制の変更その他やむを得ない事情で継続が困難なときは、協議のうえ個別の業務の中止又は契約の終了を申し入れられる。アシスタントの側の他の業務・体調不良・家庭の事情も申し出て協議受託済みの個別の業務の完了・引継ぎ・報酬の精算・データの削除を誠実に協議
A案件(規約・同意書の版)同意書は通知によりいつでも終了規約でも、連載の終了・休載・打切り等による中止・取引の終了の申入れを定める同上。存続条項(権利の帰属・秘密保持・データの削除・違約金など)
B案件1年。満了1か月前までに通知がなければ1年ずつ自動更新任意に解除するときは1か月前までに書面・メール又は電話で通知(電話の場合は書面で確認)解除時、検収済みの成果物には相当の報酬を支払う(未検収・不適合のものは除く)
C案件5日間(短期のスポット契約)。書面の合意で継続・更新―終了日から6か月以内に関連資料を削除・破棄
D案件案件ごとに提示。満了14日前までに通知がなければ30日ずつ自動更新終了を希望するときは30日前までに通知終了時点で未納品の成果物は、漫画家が承諾しない限り納品の完了まで遂行の義務。不可抗力が30日以上続けば解除でき、履行済みの部分は相応の報酬で精算

A案件が、連載の終了・休載・打切り・企画の変更を、契約の中止・終了の申入れの理由として名指ししたのは、漫画家の側では避けられない事情で仕事がなくなることを、あらかじめアシスタントと共有しておくためです。同時に、アシスタントの側の体調不良や家庭の事情も申し出て協議できるとして、双方の事情を対にしています。規約の方式への組替えでは、登録同意書でどちらもいつでも通知で終了できるとし、継続的な取引の枠組みは軽くしつつ、受託済みの作業の精算とデータの削除は規約に残しました(制作体制の組み方)。

終了の手続で工夫した定め

電話の通知

B案件

解除を希望する日の1か月前までに、書面(メールを含む)又は電話で通知できるとし、電話で通知した場合は原則として遅滞なく書面で内容を確認します。急な連載の終了の連絡が電話で行われることも多いため、電話を認めつつ記録を残す手順にしました。

発信で効力

D案件

重大な違反の発覚、信頼関係が著しく損なわれたと合理的に認められる事情、支払停止・破産など、反社会的勢力の排除の条の違反を催告なしの解除の事由とし、解除の意思表示は書面又はメールで行い、発信した時に効力を生じるとしました。解除されても、解除日までに履行された義務とその報酬の支払は妨げられません。

延長は書面で

C案件

5日間のスポット契約で、終了日以降も書面(電子契約を含む)で合意した場合にその内容に従って継続・更新し、継続の際は業務内容・報酬・期間を事前に協議して別途定めます。黙示の更新を置かず、延長のたびに条件を確認する設計です。

D案件の発信で効力を生じる定めは、連絡が途絶えたアシスタントとの契約を終わらせる場面を想定すると意味があると考えられます。

途中で止まった作業の精算と、民法の考え方

打切りで作業が途中で止まったとき、描きかけの背景や仕上げの報酬をどう払うかは、契約の性質と定めによります。請負の性質が強い契約なら、注文者の責めに帰することができない事由で仕事を完成できなくなったときや、完成前に契約が解除されたときでも、できあがった部分が分けられ、その部分で注文者が利益を得ていれば、その部分は完成したものとして扱われ、注文者が得る利益の割合に応じた報酬を請求できます(民法634条)。準委任の性質が強い契約なら、委任者の責めに帰することができない事由で履行できなくなったときや、履行の途中で終了したときに、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(民法648条3項)。

B案件の「検収済みの成果物には相当の報酬を支払う」は、この割合的な精算を契約で具体化したものと読めます。描きかけの原稿(下描きだけ、背景だけ)をどう評価するかまで決めておくと、精算で揉めにくくなります。また、請負の性質が強い契約では、注文者(漫画家)は、仕事が完成するまでの間なら、生じる損害を賠償することを条件に、いつでも契約を解除できます(民法641条)。打切りで描いてもらう必要がなくなったときに使える規定ですが、損害の賠償が伴う点に注意が要ります。

途中で止まった作業の精算の条文の例(B案件・D案件の考え方をもとに整理)

1漫画家は、連載の終了、休載、打切り、企画の変更その他やむを得ない事情により本業務の継続が困難となったときは、アシスタントと協議のうえ、個別の業務を中止し、又は本契約を終了することができます。

2前項の場合、漫画家は、中止又は終了の時点で検収を終えた成果物について、所定の報酬を支払います。検収前の作業については、作業の進み具合に応じた報酬の額を当事者が協議して定めます。

3アシスタントは、中止又は終了の後、漫画家の指示に従い、提供を受けた資料及び作業データを返還し、又は削除します。

第2項の後段は、描きかけの原稿の評価を協議で決めることを明記したものです。

不可抗力で作業が止まった場合の定めもありました。B案件は、天災・感染症の流行・通信回線の障害などで履行が不能又は著しく困難になった場合、その限度で履行の義務を免れるとし、当事者は速やかに書面で通知して、影響の範囲・想定される期間・回避の措置を説明する、としました。不可抗力が30日以上続き契約の目的を達成できないと合理的に判断されるときは、協議のうえ解除できます。免責は、責めに帰すべき事由によらず、適切な回避・軽減の措置を尽くしたことが条件で、発生前に履行された部分は契約に従って精算します。D案件も、履行の猶予・契約期間の延長・納期の再設定を協議でき、30日以上続けば書面で将来に向かって解除でき、履行済みの部分は相応の報酬で精算する、としました。在宅の作業では、停電や通信障害も現実の不可抗力になります。

更新しないときの予告:フリーランス法16条

従業員を使用する漫画家やスタジオ(特定業務委託事業者)が、継続的業務委託に係る契約を解除し、又は契約期間の満了後に更新しないときは、少なくとも30日前までに、相手方の特定受託事業者に予告しなければなりません(フリーランス法16条1項)。災害その他やむを得ない事由で予告が困難な場合など、厚生労働省令で定める場合は除かれます。継続的業務委託とは、政令で定める期間以上の期間行う業務委託(契約の更新により政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含みます)で(同法13条1項)、その期間は6か月とされています(同法施行令3条)。

予告がされた日から契約が満了する日までの間に、受託者が解除の理由の開示を求めたときは、遅滞なく開示しなければなりません(同法16条2項)。D案件の「30日前の通知」はこの予告と同じ水準で、B案件の「1か月前の通知」もおおむね同じ水準ですが、2月をまたぐ場合などは1か月前が30日に満たないことがあるため、従業員を使用する漫画家・スタジオが使うなら「30日前まで」と書く方が確実です。自動更新の契約で、仕事がないのに契約だけが続いている状態や、逆に更新しない旨の予告を忘れる状態は、どちらも起こりがちです。

打切りが決まったときのアシスタントとの契約の確認

  1. 契約の期間と更新の定めを確かめる期間の定めがないか、自動更新か、案件ごとかを確認します。
  2. 予告の要否を確かめる従業員を使用する漫画家・スタジオで、6か月以上の継続的な委託なら、解除・不更新の30日前までの予告が必要です。
  3. 受託済みの作業を整理する検収済みのもの、作業中のもの、未着手のものに分け、精算の方法を協議します。
  4. データの返還・削除を求める提供した資料と作業データの返還又は削除と、その完了の報告を求めます。
  5. 存続する義務を伝える秘密保持・権利の帰属・公開の制限などが終了後も続くことを、改めて伝えておきます。

原作の利用許諾:満了と解除を書き分ける

映像制作会社のご依頼で作成した原作使用許諾契約書では、終了後の扱いが、買切り型と売上分配型で大きく変わりました。買切り型の当初版は、終了後は新規の制作・販売・配信を止め、既に流通させた映像作品・グッズに限り一定期間販売を続けられる、終了後一定日数以内に原作の素材を返還・消去する、解除後に利用を続ければ使用料の3倍の違約金、という定めでした。終了の事由は、合意解約、解除事由の発生、倒産手続の申立て、催告後の不是正と列挙し、解除時に販売・配信済みの作品やグッズは協議で在庫の処分期間を定められるが、原作者が特に合理的な理由で異議を述べたときは速やかに止める、としました。終了後に発生した損害賠償の請求権は、民法の規定による場合を除き、終了日から3年間存続する、とも定めています。

事務所の書類での扱い 売上分配型への組替えでの終了後の扱い(第16条)

満了の場合

改訂前新規の販売を停止し、既に流通した分だけ一定期間販売できる。(買切り型の当初版)
改訂後分配期間の満了で終了した場合、満了の時点で完成し配信・販売を始めていた映像作品とグッズに限り、以後の対価なしに無償・無期限で配信・販売を続けられる。満了後に新たに作品・グッズを作ったり、原作を新たに使ったりはできない(第16条1項)。

理由依頼者のご希望(満了後も制作物を使い続けたい)を、著作権の移転ではなく利用許諾の形で実現するため。

解除などの場合

改訂前満了と解除を区別していない。(同)
改訂後満了以外の終了(解除など)では、原作の利用を直ちに止め、新規の配信・販売を中止する(同条2項)。

理由違反による解除の場合まで販売の継続を認めると、違反した側が得をするため。

素材とデータ

改訂前終了後一定日数以内に原作の素材を返還・消去。(同)
改訂後終了の事由を問わず、終了後365日以内に原作の完成データ等の素材を返還・消去する。ただし満了後の継続販売に必要な完成済み映像作品のマスターデータは保持できる(同条3項)。

理由素材の返還と、満了後の販売の継続を両立させるため。

依頼者からは、契約満了後も制作物を使い続けたいというご希望がありました。原作の著作権は契約の終了で移転も消滅もしないため、説明資料では、著作権の移転ではなく、「満了時に完成していた映像作品に限り、満了後も無償・無期限で販売を続けられる」という利用許諾の形で実現すると説明しました。許諾を受けた利用権は、原作者が著作権を第三者に譲渡しても、その第三者に対抗できます(著作権法63条の2)。

ヒヤリングシートでは、「満了後も売れる」という一言の中身を、四つの点に分解して確認しました。①満了後の継続の範囲(契約期間中に販売していなかった新しい販売サイトへの展開も認めるか、期間中に販売していたサイトでの継続だけか)、②原作の素材は返還・消去しつつ、完成作品とマスターデータは保持・利用できる整理でよいか、③満了後もクレジットの表記の義務が続くか、④違反による解除の場合は販売・配信を停止する書き分けでよいか、です。あわせて、満了後はセールの自制が外れるかどうかも確認しました。満了後の無断利用や解除後の利用には、売上分配型に合わせて組み替えた違約金がかかります(原作使用料の売上分配)。

海外の翻訳ライセンス:終わっても翻訳版は残る

事務所が日本語訳を作成した海外の翻訳配信ライセンスは、期間1年で、満了90日前までに終了の通知がなければ1年ずつ自動更新される定めでした。重大な違反が30日以内に是正されない場合や、破産・支払不能・清算などの場合は、双方が即時に終了できます。契約の終了時には、原著作者に対して発生済みの未払金が直ちに支払われます。

注意が要るのは終了後です。終了後、ライセンシーは原作の利用をやめますが、翻訳成果物の独占地域での商業利用権は、引き続きライセンシーに帰属します。期間の満了以外の理由で終了した場合は、ロイヤルティの支払義務が別紙で定める終了日まで続く、という定めもありました。原著作者から見ると、契約が終わっても翻訳版は相手方の手元に残る設計です。署名の前に、翻訳版の権利の帰属と終了後の扱いを確かめておく必要があります(印税・使用料と海外翻訳)。

ヒヤリングで確かめること 終了の条を作る前に確かめること

  1. 連載の終了・休載・打切りが決まったとき、誰がいつまでにアシスタントに伝えますか。

    予告の期限(30日前など)から逆算して、伝える時期と方法(電話なら書面で確認)を決めておきます。

  2. 途中まで進んだ作業は、どの段階なら報酬を払いますか。

    検収済み・作業中・未着手を分けて、精算の方法を決めておきます。

  3. 終了後もアシスタントに守ってもらうことは何ですか。

    秘密保持・権利の帰属・公開の制限・データの削除を、存続する事項として書いておきます。

  4. 原作の利用許諾では、満了後も販売を続けますか。新しい販売サイトにも出しますか。

    満了と解除を書き分け、満了後の範囲を具体的に決めます。

  5. 少額の繰越しや未払金は、終了時にどう精算しますか。

    売上分配型では、終了時に繰越残高を金額にかかわらず全額精算する定めを置くかを確認しました。

よくあるご質問

連載が打ち切られたら、アシスタントとの契約はどうなりますか?

契約の定めによります。連載の終了・休載・打切りを理由に、協議のうえ個別の業務の中止や契約の終了を申し入れられる、と定めておく例があります。受託済みの作業の精算とデータの削除もあわせて決めます。

途中まで描いてもらった原稿の報酬は払う必要がありますか?

すでに受け取った部分で利益を受ける場合は、その割合に応じた報酬を払うのが民法の考え方です(民法634条・648条3項)。検収済みの成果物には相当の報酬を払う、と契約で決めておくと精算がはっきりします。

アシスタント契約を更新しないときにも予告は必要ですか?

従業員を使用する漫画家・スタジオが、6か月以上の継続的な業務委託の契約を解除し、又は更新しないときは、少なくとも30日前までの予告がフリーランス法で求められます(同法16条1項)。

原作の利用許諾の期間が終わったら、映像作品の販売もやめなければなりませんか?

契約によります。満了時に完成していた作品に限り販売の継続を認め、契約違反による解除の場合は停止する、と書き分ける定め方があります。

出版社が単行本をなかなか出さないときはどうなりますか?

出版権が設定されている場合、出版権者には原則として原稿の受領から6か月以内の出版の義務があり、違反すると著作権者は通知によって出版権を消滅させられます(著作権法84条1項)。継続して出版しないときは、3か月以上の期間を定めた催告のうえで消滅させられます(同条2項)。

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